日本電信電話株式会社(NTT)の革新的な実証実験
2024年6月12日、日本電信電話株式会社(NTT)は、IOWN APN(オールフォトニクスネットワーク)を利用して複数のデータセンター(DC)に分散配置された計算処理環境において、秘密計算によるAI分析を実用的な時間で達成することに成功したと発表しました。NTTの最新技術とその可能性について詳しく述べています。
まず、IOWN APNとは何かについて触れておく必要があります。IOWN APNは、大容量かつ低遅延の通信を実現する次世代ネットワーク技術です。この技術を利用することで、従来のネットワークの制約を超えたデータ通信が可能となります。NTTはこの技術を駆使して、地理的に離れた複数のデータセンターを結び、秘密計算を行う環境を構築しました。
秘密計算とその重要性
秘密計算技術は、データのプライバシーを保護しつつ、そのデータを利用して分析や処理を行う技術です。これにより、データの漏洩リスクを低減しつつ、データを有効に活用することが可能となります。しかし、従来の秘密計算システムでは、高速な分析が可能な反面、大量の通信が発生するため、通信遅延の影響を最小化するために全てのサーバーを一つのデータセンターに配置する必要がありました。
NTTの実証実験では、この制約をIOWN APNを利用することで克服しました。具体的には、IOWN APNの大容量・低遅延通信を活用し、地理的に分散したサーバー間での秘密計算を実現しました。この結果、分散配置されたサーバーによるAI分析が実用的な時間内で完了することが証明されました。
実証実験の結果
実証実験では、3種類のネットワーク構成(IOWN APNでの接続、一般的なネットワーク接続、単一データセンター内の接続)でAIモデルの学習処理性能を比較しました。使用されたAIモデルは、GBDT(勾配ブースティング決定木)とFFNN(順伝播型ニューラルネットワーク)です。
特にFFNNの学習処理において、一般的なネットワーク接続が約157分であったのに対し、IOWN APNでは約22分と、約1/7の時間で学習が完了しました。また、単一データセンター内での接続は約15分を要しましたが、地理的に分散した場合でも約1.5倍の時間で処理が可能であることが確認されました。
この結果は、従来は通信速度と遅延の関係から同一データセンター内に限定されていた秘密計算システムが、一定距離にあるデータセンター間を結ぶ形で構成可能であることを示しています。これにより、災害対策、エネルギー最適化、セキュリティ向上といった多様なニーズに応じた安全なデータ活用プラットフォームの実現が期待されます。
今後の展望
NTTは、今回の実証実験を基にさらなる研究を進め、「安全・安心な複数事業者でのデータ利活用」や「地域データセンターを統合した計算リソース活用」といったユースケースの検証を行っていく予定です。また、導入に向けた運用課題の解決にも取り組むとしています。
今回のNTTの発表は、データ通信技術の進化とその応用可能性を示す重要な一歩です。IOWN APNのような先進的なネットワーク技術が普及することで、データ活用の幅はさらに広がり、より効率的で安全なデータ処理が可能となるでしょう。特に、複数のデータセンターを活用した分散型の計算環境が実現すれば、災害時のリスク分散やエネルギー効率の向上といった社会的なメリットも大きいと言えます。
NTTの取り組みがどのような形で実用化され、どのような新たな技術やサービスが生まれてくるのか、今後の展開に注目していきたいと思います。
デジタルアダプションプラットフォームの未来を示す「DAP Summit 2024」
2024年7月11日に開催される国内初の大規模カンファレンス「DAP Summit 2024」は、デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)のリーディングカンパニーであるWalkMe株式会社によって主催されます。このイベントは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するリーダーや成功事例を持つ企業の講演を通じて、DAPの重要性とその革新的な可能性を探る貴重な機会となります。
イベントの背景と目的
「DAP Summit 2024」は、“DAP元年”をテーマに掲げ、DXにおけるデジタルアダプションの重要性を強調する場として位置づけられています。DXは、多くの企業にとって業務改革や効率化の鍵となる一方で、デジタルツールの導入とその効果的な活用には多くの課題が伴います。特に、システムの活用推進やその定着化は、多くの企業が直面する共通の問題です。このカンファレンスでは、こうした課題を克服し、DXを成功に導くための具体的な事例とソリューションが紹介されます。
講演者と注目の講演
「DAP Summit 2024」には、富士通の福田譲氏や荏原製作所の小和瀬浩之氏、三井化学の三瓶雅夫氏など、日本を代表するDXプロジェクトのリーダーたちが登壇します。彼らの講演は、それぞれの企業がどのようにしてDXを推進し、成功を収めたかを具体的に示すものとなり、多くの参加者にとって非常に参考になるでしょう。
また、CIO Loungeの矢島孝應氏とCDO Club Japanの加茂純氏によるトップ対談や、経済産業省の和泉憲明氏による「DXレポートから振り返る、DXの本質と重要性」と題した特別講演も見逃せません。これらの講演は、DXの現状と将来を深く理解するための重要な情報源となります。
WalkMeの役割と技術的革新
WalkMeの共同創業者でありCEOのDan Adika氏をはじめ、最高収益責任者のScott Little氏、最高顧客責任者のSunil Nagdev氏、最高マーケティング責任者のAdriel Sanchez氏といった各領域のリーダーも登壇し、WalkMeの最新技術とその応用について紹介します。WalkMeのクラウドベースのDAPは、デジタルフリクションを軽減し、業務アプリケーションの活用状況を分析・改善・運用することで、チェンジマネジメントを効果的に行います。これにより、企業のDX推進を加速させ、デジタル投資対効果を最大化することが可能になります。
特に注目すべきは、WalkMeのコードフリープラットフォームです。このプラットフォームは、特許取得技術を駆使しており、経営者やビジネスリーダーが目指すデータドリブン経営を加速させるための強力なツールとなります。従業員や顧客のユーザーエクスペリエンス、生産性、効率を向上させるとともに、DX推進部門やIT部門の支援活動を超効率化します。
未来への期待と展望
「DAP Summit 2024」は、日本におけるDX推進の新たなフェーズを示す重要なイベントとなります。企業の経営層やIT担当者が一堂に会し、デジタルアダプションの最新事例や技術に触れることで、各社のDX戦略に新たな視点と具体的な解決策をもたらすでしょう。
このカンファレンスを通じて、参加者はデジタルアダプションが提供する未来を具体的に感じることができるはずです。DXの成功には、単なる技術導入だけでなく、組織全体でのデジタル文化の定着が不可欠です。WalkMeのソリューションは、まさにその実現を支えるものであり、今後の企業のDX戦略において欠かせない存在となるでしょう。
結論
「DAP Summit 2024」は、DX推進におけるデジタルアダプションの重要性を改めて認識させるとともに、最新の事例と技術を紹介することで、参加者に多くの学びとインスピレーションを提供する場となります。DXの波がますます高まる中で、WalkMeのような先進的なプラットフォームが果たす役割はますます重要となるでしょう。このカンファレンスが示す未来像は、日本の企業にとって、さらなる成長と革新の道筋を示すものとなるに違いありません。
ZscalerのZenith Live 24
2024年6月11日から13日にかけて、米国ネバダ州ラスベガスで開催されたZscalerの年次イベント「Zenith Live 24」は、サイバーセキュリティの最前線を示す重要な機会となりました。特に6月12日(現地時間、日本時間6月13日)の基調講演では、GoogleやNVIDIAとの提携が発表され、Zscalerの革新的なアプローチとその進化が鮮明に示されました。
まず、Zscalerの提供するセキュリティソリューションの概要に触れると、同社は企業の従来型のネットワークセキュリティを革新するためのツールを提供しています。具体的には、ZIA(Zscaler Internet Access)、ZPA(Zscaler Private Access)、ZDX(Zscaler Digital eXperience)といったツール群があり、これらは企業のセキュリティをアプリケーション層で管理し、ゼロトラストの考え方に基づいています。従来のハードウェア中心のセキュリティは、VPNやファイアウォールを通じたネットワークの防御を基本としていますが、そのアプローチには限界がありました。Zscalerのソリューションは、これをクラウドベースでより柔軟かつ強固なものに進化させています。
特に注目すべきは、生成AIの導入とそれに関連するNVIDIAとの提携です。ZDX Copilotは、ユーザーのアプリ利用状況を監視する生成AIツールであり、NVIDIAの推論向けマイクロサービスやマルチモーダルなファンデーションモデルを利用して構成されています。この提携により、不正アクセスの迅速な検知と対応が可能となり、セキュリティの強化が図られています。CEOのジェイ・チャウドリー氏が指摘するように、生成AIは攻撃者にも利用される可能性があり、そのリスクを見越した対策が重要です。
また、Googleとの協業により、Chrome EnterpriseにZPAの機能が統合されることも発表されました。これにより、VPNを利用せずに企業のイントラネットにシームレスにアクセスできる環境が整い、セキュリティと利便性の両立が実現されます。Googleのスニール・ポッティ氏が述べたように、セキュリティを高めつつシンプルにすることは、現代のビジネス環境において非常に重要です。
さらに、基調講演では複数の顧客事例が紹介され、Zscalerのソリューションがどのように実際の企業に貢献しているかが具体的に示されました。FedEx、CVS Health、ServiceNow、Nationwideなどの大企業がZscalerのツールを利用し、コスト削減や生産性向上、安全なリモートワーク環境の構築に成功しています。これらの事例は、Zscalerのソリューションが実際のビジネスニーズにどれだけ適合しているかを示す重要な証拠です。
総じて、「Zenith Live 24」での発表は、Zscalerがサイバーセキュリティの分野でリーダーシップを発揮し続けていることを強調するものでした。生成AIの導入、Googleとの提携、顧客事例の紹介など、同社の取り組みは非常に多岐にわたり、かつ革新的です。これにより、Zscalerは従来のネットワークセキュリティの限界を克服し、より安全で効率的なセキュリティ環境を提供する企業としての地位を確立しています。
Zscalerの今後の展望として、さらに多くの企業が同社のソリューションを導入し、セキュリティのモダン化を図ることが期待されます。特に、ゼロトラストの考え方を基盤とした「Zero Trust Exchange Platform」は、セキュリティの新たな標準となる可能性を秘めています。企業が直面するサイバー脅威に対して、Zscalerのソリューションがどのように進化し続けるのか、引き続き注目していきたいと思います。
このイベントは、Zscalerが目指す未来のセキュリティのビジョンを共有する場となり、その進化と革新の一端を垣間見ることができた貴重な機会でした。これからのセキュリティのあり方を考える上で、非常に示唆に富む内容であったと言えるでしょう。
台北国際コンピュータ見本市(COMPUTEX)
台北国際コンピュータ見本市(COMPUTEX)2024が、6月4日から台湾で開催されました。アジア最大規模のICT見本市であるCOMPUTEXは、世界中から1000社以上が参加し、最新の技術と知識の交流の場として、さらなるイノベーションの灯を生み出すプラットフォームとして注目されています。
今年のCOMPUTEXのハイライトの一つは、米国のNVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏による基調講演でした。フアン氏は黒い革ジャンをトレードマークとし、台湾出身の彼は地元メディアでもロックスター並みの扱いを受けています。彼の講演は、AIに対する世界の注目度を示すものであり、特に生成AIの拡大に焦点を当てた内容でした。
近年のサイバー系イベントでは、AIが主役となっており、筆者も2月にイスラエルで開催されたAI関連イベントに参加しましたが、ハイテク業界がAIを中心に動いていくことは明白です。今回のCOMPUTEXでも、NVIDIAと日本のサイバーセキュリティ企業であるトレンドマイクロの共同開発が大きな話題となりました。両社は共に台湾出身者によって創業され、世界的にビジネスを展開している企業です。
フアン氏は基調講演で「台湾とNVIDIAのパートナーシップが世界のAIインフラストラクチャを構築した」と語り、台湾の企業が世界の先端技術を支えていることを強調しました。NVIDIAとトレンドマイクロの共同開発については、ロイター通信も報じており、AIを使用してデータセンターを保護する新しいサイバーセキュリティ・ツールの開発が進行中であると伝えられました。
AIは今や企業だけでなく、政府や消費者の活動をも支える技術となっており、NVIDIAのような企業が提供するコンピューティングパワーがますます重要になっています。企業がAIを導入する場合、例えば大規模なLLM(大規模言語モデル)を用いて業務に関する質問や要求に対応することが一般的です。これは、企業のデータベースを言語的に検索し、そこからオリジナルの出力を生成する「プライベートAI」として機能します。
しかし、このプロセスには多くのリスクが伴います。例えば、データベースから機密情報が漏洩したり、AIの誤作動を狙ったデータポイズニング(データの改ざん)が発生する可能性があります。プロンプトインジェクションという攻撃も存在し、LLMに悪意ある指示を巧妙に入力することで不正操作を狙います。また、MDoS(Model Denial of Service)攻撃により、LLMに大量のデータを与えて負荷をかけることも考えられます。
こうしたリスクを回避するためには、AIに対するサイバーセキュリティ対策が必要です。NVIDIAとトレンドマイクロはこの分野で協力し、AIのリスクを回避し、データへのアクセス権限を管理するシステムを開発しています。トレンドマイクロのエバ・チェンCEOは、企業がAIのサイバーセキュリティのリスクについて何をすれば良いか分からないと感じていることを指摘し、AIの安全な利用をサポートすることを目指しています。
トレンドマイクロは2018年からAIに関連するサイバーセキュリティの開発に取り組んでおり、NVIDIAとの共同開発はその先駆けとなるものです。COMPUTEXでは、AI PCについての議論も活発に行われました。AIを動かせないPCは姿を消し、AIを活用するのに十分なコンピューティング能力を持った「AI PC」が主流になると予想されています。これにより、AI PCにもサイバーセキュリティが組み込まれることになります。
AIの導入は避けられない時代になりつつあり、トレンドマイクロのような企業がそのリスクに対処し、安全性を提供することが求められています。NVIDIAとの協力を通じて、トレンドマイクロがAI時代のサイバーセキュリティのリーダーシップを発揮し、世界的に重要な存在となることを期待しています。
キンドリルジャパン株式会社が2025年度の事業戦略を説明
ジョナサン・イングラム氏が新たに代表取締役社長に就任し、3つの重点項目を掲げていることは、同社の未来に対する明確なビジョンと決意を感じさせます。これらの重点項目に対する感想と、それらがもたらす可能性について考察してみたいと思います。
まず、第一の重点項目である「ITモダナイゼーション」についてです。キンドリルジャパンは、Kyndryl Bridgeを通じてAIと自動化を活用し、運用の効率化を図ることを目指しています。この戦略は、急速に進化するIT業界において非常に重要です。AI技術の進化により、運用の自動化と効率化は、企業の競争力を大幅に向上させる可能性があります。特に、日本国内においては、富士通のメインフレームの販売終了が発表されており、その移行支援が急務となっています。キンドリルジャパンが持つ専門知識と人材を活用し、メインフレームモダナイゼーションを推進する体制を整えることは、国内企業にとって非常に有益です。
また、NVIDIAとの提携により、Kyndryl BridgeにNVIDIA NIMを組み込むことで、AIOpsの最適化が図られる点も注目に値します。これにより、ITインフラの障害予測と分析が迅速に行われ、ネットワークの安定性が向上することが期待されます。日本企業への利用促進を図る中で、三菱自動車がすでにKyndryl Bridgeを採用していることは、この取り組みの成功例として非常に示唆的です。
第二の重点項目である「インドを活用したマネージドサービス」も非常に興味深いです。日本は人口減少に伴い、IT人材の不足が深刻化しています。そのため、インドの豊富なITプロフェッショナルを活用することで、サービス提供とコスト基盤の最適化が実現されることは、非常に合理的な戦略です。グローバルなデリバリーネットワークの活用により、日本企業のITニーズに応えるだけでなく、コスト効率の向上も期待できます。キンドリルジャパンが毎年100人以上の人材を採用し、新卒採用プログラムを通じて若い人材のITスキル取得を支援していることも、将来的な人材不足の解消に向けた重要な取り組みです。
第三の重点項目である「社会成長の生命線を掲げる企業としての社会への貢献」についても、多大な意義があります。キンドリル財団が日本のNPO団体を支援し、サイバーセキュリティ対応人材の育成やNPO団体のレジリエンス向上を目指すプログラムを助成していることは、社会全体の成長と安全に寄与する取り組みです。また、社員一人ひとりを尊重し、ウェルビーイングを重視する姿勢は、企業の持続可能な成長に不可欠な要素です。イングラム社長がID&Eイニシアティブを推進し、社員全員がパフォーマンスを発揮できる環境づくりに貢献していることは、企業文化の健全化と共に、優れた人材の確保と定着にも繋がるでしょう。
総じて、キンドリルジャパンの2025年度事業戦略は、ITモダナイゼーション、インドのIT人材活用、そして社会貢献という三本の柱を中心に据えた、非常に包括的かつ先見性のある計画であると感じました。これらの取り組みが実現すれば、日本のIT業界全体に対する大きなインパクトを与えるだけでなく、キンドリルジャパン自体の競争力とブランド価値も飛躍的に向上することが期待されます。イングラム社長のリーダーシップのもと、キンドリルジャパンがどのようにこれらの目標を達成していくのか、今後の展開が非常に楽しみです。